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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)87号 判決

原告 石油連盟

被告 公正取引委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告が原告に対し、公正取引委員会昭和四六年(判)第四号私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反事件について、昭和四九年三月二八日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因及び主張を次のとおり述べた。

一  原告は、石油の精製業者、石油製品の元売業者、並びに石油精製業及び石油元売業を兼営している者を会員とし、石油業の健全な発達を図ることを目的として設立され、定款のうえで会長を代表者とすることを定めている権利能力なき社団であり、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二二年法律第五四号、以下単に独禁法という)上の事業者団体である。

被告は、総理府設置法に基づいて総理府の外局として置かれ、独禁法の目的を達成することを職務とする行政庁である。

二  被告は、原告を被審人とする公正取引委員会昭和四六年(判)第四号独禁法違反事件について、昭和四九年三月二八日別紙審決書(写)のとおり審決した。

三  右審決(以下、本件審決という)には、次のような取消事由がある。

(一)  実質的証拠の欠缺

1  本件審決(理由第一の一の(二))は、「被審人は、……各種常設の委員会を設けている。……営業委員会は、……一般石油製品の販売に関する事項、流通機構に関する事項、給油所に関する事項等を審議決定しており、同委員会の決定は、特に経費の支出を必要とする事項等を除き、被審人の決定とされている。」と認定している。

しかし、原告の営業委員会が決定権限を有し、その決定が原告の決定とされているとの点について、実質的証拠がない。

2  本件審決(理由第一の二の(一))は、「被審人は……外国の原油供給業者からその取引の相手である会員に対し、原油の販売価格を引き上げる旨の通知があつたため、営業委員会等においてその対策を検討してきたところ、昭和四六年二月二二日、……営業委員会において、……石油製品の品目別値上げ額を検討した結果、ア会員元売業者は、石油製品の販売価格を一キロリツトル当り、次の値上げ額を目標として引上げること……を決定した。」と認定している。

しかし、昭和四六年二月二二日の会合が、外国の原油供給業者による原油販売価格引き上げの対策を検討するための営業委員会であつて、同委員会において石油製品の品目別値上げ目標額を決定したとの点については、実質的証拠がない。右の会合は、原告の一会員元売業者の課長の説明を中心に、原油コスト・アツプに伴う負担増について各油種別並びに全国統計的に試算と検討を行つたもので、値上げ目標額を決定したものではない。

3  本件審決(理由第一の二の(二))は、「会員元売業者は、前記決定に基づき、それぞれ石油製品の値上げ額を定め、……おゝむね、所定の期日から、揮発油については前記決定額のとおりに、その他の石油製品については前記決定額を目標として販売価格を引き上げている。」と認定している。この認定は、当然に原告会員元売業者が昭和四六年二月二二日以降公正取引委員会の本件審判開始決定までにした価格行動はすべて、二月二二日決定といわれるものの目標値を目標として販売価格の引き上げをしているという認定にほかならない。

しかし、原告が審判手続において提出した反証(審第一ないし第一七号証、参考人野田進一郎、渡辺武夫、出光計助、富永武彦、松井達夫、金山哲三、大江哲郎、田原剛、武信光、松浦達也の各陳述)と対比すると、原告会員元売業者が昭和四六年二月二二日以降審判開始決定までの間にした石油製品の値上げまたは値上げ交渉は、もともと二月二二日の決定といわれるものに基づくものでなかつたり、同年三月下旬ころからは右決定といわれるものと無関係になされたりしているのである。

右反証によると、同年三月下旬通産省から原油コスト・アツプに伴う負担増分中、バーレル当り一〇セント分を石油業界が負担し、残余の製品換算平均八六〇円につき、需要者転嫁を許す旨、行政指導の大綱が内示され、同年四月二二日更に明確、具体的に行政指導が行われたこと、右行政指導(以下、本件行政指導という)以後、原告会員元売業者は本件行政指導に従つた価格行動に転換していることがあきらかである。そして、右反証とくに本件行政指導の内容に関するものと審決挙示の証拠を対照すると、審決挙示の証拠にあらわれた原告会員元売業者の価格行動のうち、本件行政指導以後の部分の実質は、本件行政指導に従つた価格行動にほかならないことが明白である。

この点に関連して、原告は、審判手続における予備的主張として、本件行政指導以後は本件行政指導に起因して、本件審決記載の違法状態は本件審判開始決定以前に消滅したものであること、及び原告が同年四月二二日に会員元売業者に対し本件行政指導を周知徹底する措置をとつたことは前記二月二二日の決定といわれるものを破棄する行為であつて、これによつても審決に記載された違法状態が既に審判開始決定以前に消滅しているものである旨主張したものであるが、原告の反証自体によつて及び原告の反証と審決挙示の査号証を対照すれば、次の事実があきらかであつて、この点に関する審決挙示の証拠は、いずれも審決認定の基礎たりうるものではない。

(1) 二月二二日の決定といわれるものの内容は、オペツクによる原油コスト・アツプを国内製品価格に換算した場合、総平均で一キロリツトル当り一、一一三円のコスト・アツプになるので、これを完全に需要者に転換すること、そのために品目別値上げ額は次の価格(揮発油二、〇〇〇円等)を目標にして値上げすることというものであり、本件行政指導の内容のうち、同年三月下旬通産省鉱山石炭局石油計画課長から原告会長に内示されたものは、原油コスト・アツプに伴う負担増分の全額を需要者に転嫁することは適当でない、バーレル当り一〇セント(製品換算キロリツトル当り二三五円)を石油業界が負担し、残余八六〇円(キロリツトル当り製品換算値)を需要者に転嫁することはやむを得ない、各社の事情にあわせて行動すること、というものであり、同年四月二二日同課長から原告営業委員会に伝達された行政指導の内容は、前記内示の内容を繰返し強調するとともに、製品価格で八六〇円の転嫁をするについては大口需要者に応分の転嫁を図ること、一般消費者向けの灯油については値上げを自粛すること、というものであつた。したがつて、二月二二日の決定といわれるものの内容と行政指導の内容は全く矛盾する内容であり、行政指導に従いつゝ二月二二日決定といわれるものに従うことは、論理的にも実際的にも不可能であつた。なお、本件行政指導は、製品値上げの上限が製品換算キロリツトル当り総平均八六〇円と規制されたものであるから、これを業者別にすると、各元売業者の輪入原価構成比によつて実数値が若干上下することは当然であるし、揮発油について二、〇〇〇円の値上げをしても、各油種平均八六〇円が上限とされておれば、行政指導にもとる価格行動とはいえず、また大口需要者に対するC重油、軽油、灯油の応分の値上げがあつても、そのこと自体は行政指導を遵守したことになるのである。

(2) 行政指導の内示を受けた原告会長は、直ちに電話等によりこれを会員元売業各社の社長に伝達し、同年四月二二日原告は営業委員会を開催したうえ、その席上、会員元売業者に対し通産省石油計画課長を介して本件行政指導を明確かつ具体的に徹底する措置をとり、これによつて各元売業者は本件行政指導を了知した。

(3) 原告会員元売業者は、本件行政指導に従うほかないものと理解していたし、客観的状勢も会員元売業者をして本件行政指導に従うほかなからしめるものであつた。

(4) 本件行政指導以後、三菱石油株式会社、出光興産株式会社は本件行政指導の趣旨に合つた値上げ指示を行つており、共同石油株式会社は本件行政指導下に入ることを明確にした指示を行つており、日本石油株式会社、シエル石油株式会社は本件行政指導の趣旨を支店に通達しその趣旨の徹底をはかるとともに、実行価格が本件行政指導に合致するよう処置しており、モービル石油株式会社は製品価格が本件行政指導の枠を超えるおそれができた場合は改めて措置を講じうる態勢にある。いずれも本件行政指導後、会員元売各社の特質に応じた措置をとつている。

(5) 各会員元売業者の実行価格は、いずれも本件行政指導の平均八六〇円の枠内にとどめられているし、行政指導の趣旨にもとる如き値上げ額ではない。被告は二月二二日決定といわれるものの値上げ目標額のとおりか、ないしはこれに近い値上げが行われているというが、その数値を一見すれば、然らざることがあきらかである。

これを要するに、前記本件審決認定事実のうち、とくに本件行政指導がなされた同年三月下旬以降の原告会員元売業者の価格行動に関する部分については、審決挙示の証拠は、原告の前記反証と対比した場合、その認定事実の合理的証拠とするに足りないものであるから、前記審決認定事実については実質的証拠がないことに帰する。

(二)  判断遺脱、理由不備

1  原告は、審判手続における仮定的主張の第一として、二月二二日の決定といわれるものが行政指導に起因して消滅したと主張した。すなわち、原告は、「かりに、二月二二日の決定といわれるものが存在するとしても、昭和四六年四月二二日、通産省から原告及び会員元売業者に対し原油値上り分全額を消費者に転嫁することは不可である、原油値上り額のうち一バーレル当り一〇セント相当分を石油業界が負担吸収することとし、石油製品の販売価格の引き上げは全油種平均一キロリツトル当り八六〇円を限度とする旨の行政指導が行われた。この行政指導は、それ自体、原告の会員元売業者をして、原油値上り分を全額消費者に転嫁するという考え方(二月二二日の決定といわれるもの)を放棄して行政指導に従つた価格設定をせざるを得ない立場に置く如き強力な影響力をもつものであるが、諸々の国際状勢、国内の政治経済、社会状勢を背景として、原告会員元売業者をして二月二二日の決定といわれるものを放棄させ行政指導に従わせた。したがつて、二月二二日の決定といわれるものは、本件行政指導に起因して消滅した。」と主張し、その立証をしたのである。

ところが、本件審決(理由第三の一の(一))は、原告の右主張を「仮りに本件決定が行われたとしても、その後通産省から被審人及び会員元売業者に対し、……石油製品の販売価格の引き上げは全油種平均一キロリツトル当り八六〇円を限度とするような行政指導が行われ、会員元売業者も、それぞれこれに従つて石油製品の販売価格を定めているのであるから、本件決定に基づく違法状態は本件審判開始決定以前において既に消滅したものである。」と摘示し、これに対する判断((二)当委員会の判断)として、「通商産業省の前記行政指導は、何ら法律上の強制権限に基づいて行われたものでなく、被審人及び会員元売業者に対し、単に原油の値上りに対応して石油製品の販売価格を引き上げる場合のガイドラインを示したものに過ぎないから、これによつて、本件決定に基づく違法状態が消滅するものではない。」と説示している。

しかし、原告は、本件審判の過程で、本件行政指導が通産省の有する法律上の権限に基づくものである旨主張したことは一度もないし、本件行政指導が法律上の権限に基づくものでないことのみを理由として原告の主張を排斥しているのは、あきらかに原告の主張を誤解し判断を遺脱しているものである。すなわち、原告は、行政指導の一般論とか建前論を問題にしているのではなく、石油業界がわが国産業の中における特殊の立場から本件行政指導を遵守せざるを得ない現実であり、また石油業界はそのように理解していたこと、本件行政指導前における通産省の態度や一般国民の石油製品値上げに対する態度などから、本件行政指導は、石油元売業者をしてこれに従わざるを得ない立場に立たせたもので、しかもそれは二月二二日の決定といわれるものの内容と全く矛盾する行動をとらざるを得なくするものであり、現に本件行政指導後、会員元売業者が本件行政指導に従つた価格行動に転換しているものであるから、本件行政指導に起因して二月二二日の決定といわれるものは消滅した旨主張、立証し、この点に関する判断を求めたものである。しかるに、本件審決は、本件行政指導が法律上の強制権限に基づいたものでなくガイドラインに過ぎないとの一般論だけから原告の主張を排斥しているのであつて、原告の右主張を誤解し審決に影響を及ぼすべき重要な争点についての判断を遺脱しているもので、理由不備の違法があるというべきである。

2  原告は、審判手続における仮定的主張の第二として、二月二二日決定といわれるものを破棄したことに相当する措置があることを主張した。すなわち、原告は、「かりに二月二二日の決定といわれるものがあつたとしても、昭和四六年三月下旬、原告会長出光計助から本件行政指導の内容が各会員元売業者に伝達され、かつ同年四月二二日原告が設営して原告会議室で開催した営業委員会において、通産省石油計画課長から口頭並びに文書により二月二二日の決定といわれるものの内容とは全く矛盾する内容の行政指導が原告会員元売業者に周知徹底されたが、原告が右のような措置をとり直接会員元売業者に行政指導の内容を周知徹底させた措置は、原告自身が会員業者をして本件行政指導に従わせるため通産省係官を介して行政指導そのものを周知徹底せしめることを実行したと評価さるべきもので、これは原告が二月二二日の決定といわれるものを破棄する行為に相当し、これによつて右決定といわれるものは消滅し、これに基づく違法状態が消滅した。」と主張し、その立証をしたのである。

しかるに本件審決は、原告の右主張を被審人の主張部分に摘示していないし、右事実の有無も認定していない。これは、あきからに審決に影響を及ぼすべき重要な原告の主張、立証についての判断遺脱であつて、理由不備の違法があるというべきである。

(三)  法令の解釈適用の過誤

かりに、本件審決(理由第三の一の(二))の「本件全証拠にてらし、被審人が本件決定を破棄し、又は会員元売業者をして値上げの申し入れを徹回させる等破棄に準ずる措置をとつた形跡は認められない。」との部分が、原告の前記仮定的主張第二について判断したものと解せられるとしても、審決は独禁法第五四条第二項後段の「既に当該行為がなくなつていると認める場合」ということの解釈が誤つている。

すなわち、本件審決は、「前記二月二二日の決定は、被審人がこれを積極的に破棄する等の措置をとらない限り、依然としてその効力を失つていないものというべきところ、被審人が本件決定を破棄し、又は……破棄に準ずる措置をとつた形跡は認められない。」として、前記決定といわれるものに基づく違法状態が消滅した旨の原告主張を排斥しているところ、右審決にいう「破棄する措置」とは、「事業者団体たる原告の決定権限ある機関において、販売価格引き上げ決定そのものの破棄決定を行つたうえ、これを各会員元売業者に周知徹底させて、各会員元売業者をしてその取引先に対し値上げの申し入れを徹回させ、また、まだ値上げの申し入れをしていないときは、これをしないようにして破棄決定を実施させる等の措置」であるといゝ、また「破棄に準ずる措置」とは、「事業者団体の決定権限ある機関において、破棄決定は行わないが、会員元売業者をしてその取引先に対し値上げの申し入れを徹回させ、また、まだ値上げの申し入れをしていないときは、これをしないようにさせることを決め、これを会員元売業者に周知徹底させる等の措置」であるというのである。

しかし、独禁法第五四条二項後段及び独禁法の他の条項も、当該違法行為がなくなるための原因、名義、方式等について特段の定めをしていないのであるから、「当該行為がなくなつた」との事実のうちには、原告の仮定的主張第一のとおり行政指導に起因して消滅した場合も含まれるし、また原告の仮定的主張第二のとおり原告の自発的行為によつて消滅した場合も含まれるものと解して何ら差支えない筈である。また原告の任意の行為による場合は、契約の自由、方式の自由の原則が支配し、行為の名義、方式として破棄というような明確な名義、方式をとる必要はないのである。違反行為がなくなつているか否かの認定は、あくまで経済実態に即して行われるべきであつて、行為の形式によつて認定すべきものではない。現に、被告は違反事実の存在を認定する際、まさにこのような態度をとつているのであるから、違反事実の消滅を認定する際これと異なる態度をとることは矛盾といわざるを得ない。

(四)  審判手続の違法

原告は、本件審判手続において、勧告主文の排除措置の内容について釈明を求めたのに対し、審査官は釈明を拒否し、この点について何等の審理もされないまゝ審判手続が終了している。本件審決は排除措置の内容について被審人の意見、弁解を徴すべき明文がなく、その必要もないとしているが、正当な見解ではない。本件審判手続には、重大な手続違背(公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第三九条第二項参照)、審理不尽の違法がある。

(五)  審決主文の違法

1  本件審決主文の二は、「被審人は、同項に基づいてとつた措置及び……旨を、……会員元売業者をして、それぞれの取引の相手方に周知徹底させなければならない。」と下命しているが、これは法律上不可能を強いるものであつて違法である。

2  本件審決主文の三は、「被審人は、今後、会員元売業者の石油製品の販売価格の引上げについて、目標価格及び実施時期を決定する等の方法により、会員元売業者の意思の統一を図る行為をしてはならない。」と下命しているが、その内容は抽象的かつ具体性を欠く不明確なもので、不能を強いるものであるから違法である。

四  以上のとおり、本件審決には違法、取消事由があるから、請求の趣旨記載の判決を求める。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁及び主張を次のとおり述べた。

一  原告主張第一項記載事実は認める。

二  同第二項記載事実は認める。

三  同第三項の主張は争う。

(一)  実質的証拠の欠缺について

1  (原告主張1について)原告主張1記載の審決認定事実については、審決挙示の証拠とくに査第二七号証、第三二号証、第三六号証、第三七号証、第四五号証、第五四号証、第五五号証、第六二号証の各記載によつてこれを認め得るほか、さらに査第四号証、第二三号証、第三五号証、第五一号証、第五八号証の各記載を綜合すれば、その証明は十分である。

2  (原告主張2について)原告主張2記載の審決認定事実については、審決挙示の証拠とくに

査第一二号証の一、二、第一九号証の一、第七〇号証の二、第七三号証の一ないし四、第七四号証の五、第七六号証の一、第八一号証の一、二

査第四〇号証、第四六号証、第五九号証、第六一号証、第八九号証、第九三号証、第九四号証、第一二四号証、

査第三四号証、第六〇号証、第九六号証

の各記載によつて認め得るほか、さらに

査第一二号証の四、五、第六七号証の一、第八四号証ないし第八六号証

査第二四号証、第二八号証、第四二号証、第四七号証、第四八号証、第五〇号証、第五三号証、第五七号証、第九二号証

査第九五号証

の各記載を綜合すれば、その証明は十分である。

なお、原告の一会員元売業者の課長の説明を中心に、原油のコスト・アツプに伴う負担増について試算と検討を行つたものであるとの原告主張が到底採用できないことは、前掲査第一二号証の一、二、第四〇号証、第四六号証の記載によつてあきらかである。

3  (原告主張3について)原告主張3記載の審決認定事実については、審決第二の事実二の(二)について挙示した多数の証拠により証明十分である。

原告は、反証として提出した審第一ないし第一七号証、及び参考人の各陳述の援用により、行政指導以後原告会員元売業者は行政指導に従つた価格行動に転換していることがあきらかであるとし、審決挙示の証拠中、行政指導以後の部分は行政指導に従つたことを示すものであると主張するけれども、このような主張が理由がないことは、審決挙示の証拠を詳細に検討すればあきらかである。

この点に関連して、原告が(1)ないし(5)において主張するところに反論する。

(1) (原告主張(1)について)原告営業委員会における二月二二日の決定は、原油コスト・アツプ分の完全転嫁をあくまでその目標とするものであつて、かりに何らかの事情で(原告主張の行政指導なるもの等を含む)完全にその目標を達成できなかつたからといつて、石油元売業者の価格行動が右決定に基づくものでなくなるものではない。そして、一般に行政指導について強制力がない点については争いがなく、原告主張の行政指導なるものの内容も原油コスト・アツプ分の全額転嫁は適当でないが、全油種平均一キロリツトル当り八六〇円の限度で需要者に転嫁することはやむを得ないとするものであつて、販売価格を引上げるべきことを指導したものではないのであるから、原告会員元売業者の価格行動をもつて前記決定に基づくものとするについて何ら矛盾はない。かりに、二月二二日の決定と行政指導が矛盾するものであるとしても、原告会員元売業者の価格行動が行政指導後の同年五、六月ころにおいて、なお二月二二日の決定を目標としていることは本件証拠上あきらかであるから、このような論議は無意味といわざるを得ない。

なお、原告は、揮発油を決定どおり二、〇〇〇円に値上げしても、あるいは大口需要者に応分の値上げがあつても、各油種平均八六〇円が上限とされておれば、行政指導にもとる価格行動とはいえない、行政指導を遵守した行動である旨主張するところ、被告は、値上げ達成額が各油種平均八六〇円の枠内にあつたとの点を認めるものではないが、かりにその枠内であつたとしても、それは結果的にそうなつているにすぎないのであつて、原告主張の如き結論となるものではない。前掲証拠によれば、消費者の抵抗力が弱い値上げの容易な油種(揮発油)につき、まずほゞ決定どおり値上をし、大口需要者向けの抵抗力の強い値上げの困難な油種については値上げ目標額の達成が遅れたため、さらに値上げのため努力していることが認められ、原告会員元売業者が行政指導に対応して全油種平均で八六〇円の値上げを実施したという形跡は全くなく、揮発油二、〇〇〇円の値上げは決定の実施以外の何ものでもないのであるから、原告会員元売業者が二月二二日の決定に従つた価格行動をしているとするのに何らの支障はない。

(2) (原告主張(2)について)後記(二)2において述べるとおりである。

(3) (原告主張(3)について)後記(二)1において述べるとおりである。

(4) (原告主張(4)について)三菱石油株式会社、出光興産株式会社、共同石油株式会社、日本石油株式会社及びシエル石油株式会社は、その実際の行動において、原告の主張と矛盾する行動をとつていることは前掲証拠によつてあきらかであるから、この点に関する原告の主張は失当である。また、モービル石油株式会社についても、同社の値上げ指示額が行政指導の額を大きく上廻つているのに減額指示をしない態度や五月中旬ないし六月上旬における同社支店の行動をみれば、原告の主張が失当であることあきらかである。

(5) (原告主張(5)について)二月二二日の決定の目標はあくまで目標であり、目標に達しないからといつて、原告会員元売業者の行動が右決定に基づくものでないとはいえないのである。また値上げ実施予定後一、二か月の時点で、値上げ達成額の一部がかりに行政指導の枠内におさまつていたとしても、それは当時の経済状勢等によるものであつて、その時点における原告会員元売業者の行動を行政指導に従つた価格行動であるとはいえない。

(二)  判断遺脱、理由不備について

1  (原告主張1について)被告は、事業者団体の決定により一旦違法が生じた以上、これを消滅させるには必ず「破棄する等の措置」という形式を伴う行為がなければならないと主張するものではない。急激な経済実態の変動または長年月の経過による経済実態の変更等により違法な決定に拘束性が全くなくなつたとあきらかに認められる場合でない限り、破棄する等の措置が必要であると主張するのである。とくに本件のように、審決理由第一の二の(二)で認定したとおり、原告会員元売業者が行政指導後である同年五月ないし六月においても、なお二月二二日の決定に基づき鋭意目標達成に努めていることがあきらかである以上、石油業界がわが国産業の中における特殊な立場から行政指導を遵守せざるを得ない現状にあり、また石油業界もそのように理解していたなどという原告の主張がとるに足りないものであることはいうまでもなく、また現実に原告会員元売業者の価格行動が二月二二日の決定にそつたものである限り、行政指導に従いつゝ二月二二日の決定に従うことは事実上も論理的にも不可能である旨主張して通産省の態度を云云してみても、それは何ら説得力を有するものではない。

そこで、本件審決は、その理由第一「事実」の二において、原告主張の事実と全く矛盾する原告会員元売業者らの前記価格行動を認定し、さらに理由第三「被審人の主張に対する判断」の一の(一)、(二)においても、このことについて述べることにより原告の右主張について判断しているのである。したがつて、本件審決が原告の右仮定的主張についての判断を遺脱したとの主張は失当である。

2  (原告主張2について)原告主張のうち、原告会長から各会員元売業者に行政指導の内容が伝達されたとの点については、原告が審判手続の最終意見において唐突として主張をはじめたのであつて、その主張自体時機に遅れたものであるとのそしりを免れないが、それはともかくとしても、原告のこの点に関する主張は、まず最終意見書で、出光会長から僅かに一部の会員元売業者である三菱石油株式会社、出光興産株式会社及び日本石油株式会社の三社のみに伝達されたが、他の会員元売業者のうち丸善石油株式会社、共同石油株式会社、シエル石油株式会社及びモービル石油株式会社の四社については四月二二日の行政指導によつて伝達を受けたというものであつて、その余の会員元売業者が何時伝達を受けたかについては全くふれるところがなく、また審決案に対する異議申立書においては、漠然と出光会長から各元売業者の社長に伝達されたと主張しているに過ぎないものである。その主張自体一貫性を欠く極めて抽象的な漠然としたものであるから、これをもつて、審判手続において、出光会長がその権限に基づいて行政指導を各会員元売業者に伝達した旨主張したと目し得ないものといわれなければならないし、もとよりかかる事実を認めるに足りる証拠はない。

また、四月二二日原告会議室において、通産省石油計画課長から行政指導が周知徹底されたとの点については、被告は原告主張のような行政指導が行われたとの事実は否認するが、かりにその事実があるとしても、審決で認定した事実が存在する以上、違反主体自ら(事業者団体である被審人の決定権限ある機関において)正規の手続をふんで積極的に決定そのものを破棄し、会員に対してその旨を了承させてこれを実施させる等の措置をとつたと認められない限り、通産省の石油計画課長が行政指導を話したとか、事業者団体が決定と矛盾するが如き行動に出たとか、一部の会員が右決定と一致しない行動に及んだということがあつたからといつて、事業者団体の決定により一旦生じた競争阻害状態が解消し、競争の復活を可能ならしめるとすることはできないから、未だ決定を破棄し、または破棄に準ずる措置をとつたと認めることはできないのである。

このような解釈に立つて、本件審決は、二月二二日の決定は、違反主体である原告が(その決定権限ある営業委員会等において)自らこれを破棄する等の措置をとらない限り、依然としてその効力を失つていないと述べたうえ、本件全証拠にてらし原告が決定を破棄し、または破棄に準ずる措置をとつた形跡は認められないとして、原告が決定に基づく違法状態を消滅させたことを認めるべき証拠がないことを説示しているのである。したがつて、この点に関する原告の主張は理由がない。

(三)  法令の解釈適用の過誤について

被告は、前述のとおり独禁法違反行為がなくなつたとの事実認定について、一般的に、すなわちすべての場合に何らかの形式を伴う行為を要求しているものではない。もつとも、本件審決理由の第三の一の(二)の後段には、一般的に違法事実の消滅を認定するには何らかの形式を伴う行為を必要とするかの如き印象を与える表現があるけれども、これは決して原告主張のように行為の形式によつて認定していることを示したものではない。

本件の場合、さきに述べたように、行政指導には強制力がないこと、原告会員元売業者が行政指導に従わざるを得なかつた事情にあつたものとはいえないこと、また実際、本件行政指導なるもののなされた後も原告会員元売業者が二月二二日の決定に基づく価格行動をとつていることが認められることから、このような情況にある本件においては、なおかつ原告の違反事実の消滅を認定するには、原告の破棄またはこれに準ずる何らかの措置の存在を認定し得る必要のあることを説示したものであつて、原告主張のように違反事実の消滅の認定に何らかの形式を伴う行為を一般的に要求しているものではないのである。したがつて、この点に関する原告主張も理由がない。

(四)  審判手続の違法について

審判手続において、原告が勧告主文の排除措置の内容について釈明を求めたのに対し、審理がされないまゝ審判手続が終了した点が違法でないことは、本件審決理由第三の二の(二)において説示されているとおりである。要するに、審判手続において、審判官は被審人から排除措置の内容についてまで意見弁解をきく必要がないから、審査官に対しこの点について釈明を行わせ、または自ら釈明する必要はないとする見解によるものであつて、その正当であることは多言を要しない。したがつて、この点に関する原告主張も理由がない。

(五)  審決主文の違法について

1  (原告主張1について)本件審決主文の二中、原告の会員元売業者をしてそれぞれの取引の相手方に周知徹底させなければならないとする義務の内容は、事業者団体である原告において、その統制的機能に基づき、各会員元売業者に対し指示をして、それぞれの取引の相手方に周知徹底させるよう努めることにあるのであつて、このような義務を真摯に履行した以上、かりに会員元売業者の中で、原告の事業者団体としての統制的機能に基づく指示に従わず周知徹底の方法をとることを拒否したものがあつたとしても、そのことの故に、原告が義務不履行による審決違反に問われるというものではないから、主文の二は原告主張のように不可能を強いるものではなく、この点の原告の主張は失当である。

2  (原告主張2について)一般に行政行為の内容を確定するに当つては、その文言の形式のみにとらわれず、通常人の合理的解釈に従い合目的な判断により決定すべきものであつて、審決についてもこれを別異に解釈すべき理由がない。主文の三についても、本件排除措置の内容ないし目的を考え、社会通念に従つてこれらを合理的に解釈するならば、その具体的内容はおのずから確定される筈である。したがつて、前記主文の内容が抽象的かつ具体性を欠くとする原告の主張は失当である。

四  以上のとおり、原告の主張はいずれも理由がないから、原告の請求は前提を欠き棄却を免れない。

理由

一  原告が、石油の精製業者、石油の元売業者、並びに石油精製業及び石油の元売業を兼営している者を会員とし、石油業の健全な発達を図ることを目的として設立され、定款のうえで、会長を代表者とすることを定めている権利能力なき社団であり、独禁法上の事業者団体であること、被告が総理府設置法に基づいて、総理府の外局として置かれ、独禁法の目的を達成することを職務とする行政庁であること、以上は当事者間に争いがない。

二  被告が、原告を被審人とする公正取引委員会昭和四六年(判)第四号独禁法違反事件について、昭和四九年三月二八日別紙審決書(写)のとおり審決したことも当事者間に争いがない。

三  原告は、本件審決には違法、取消事由があると主張するので、その主張にかゝる違法、取消事由につき、順次判断する。

(一)  実質的証拠の欠缺について

1  原告は、本件審決認定事実中、原告の営業委員会が、一般の石油製品の販売に関する事項等につき決定権限を有し、特別の事項等を除き、その決定が原告の決定とされている、との点(審決理由第一の一の(二))につき実質的証拠がない、と主張する。

しかしながら、審決挙示の証拠によれば、次の事実が認められる。すなわち、

原告の機構の中には、総会、理事会、常務会、各種委員会等があるが、理事会は会員である精製業者及び元売業者各社の代表者らをもつて、常務会は同じく会員である精製業者及び元売業者各社の常務取締役らをもつて、また、営業委員会は会員元売業者各社の営業を担当する常務取締役らをもつて、それぞれ構成されているところ、理事会及び常務会は、いずれもその構成が精製、元売両業種にわたる点において、元売業者のみによつて構成される営業委員会と大きな違いがあり、営業に関する事項は元売業者に関する事項で精製業者は関係がないから、常務会または理事会で審議決定するに適しない実情にあつた。原告においては、かつては、営業委員会において審議した事項を常務会に上程することになつていたが、前記のように実情に合わない点があるため、営業委員会の所管事項は原則として営業委員会限りで決定させることとし、そのため営業委員会の構成員は以前は各社の営業部長級の者であつたのを、そのレベルを引き上げて各社の意向を代表できる営業担当の常務取締役級の者に改めた。そして、この営業委員会は、一般石油製品の販売に関する事項、流通機構に関する事項等を審議しており、これら審議事項のうち、原告から経費の支出を要する事項、官公庁等外部から原告に意見を求められた事項、原告として対外的に意見を表明する事項及び原告の全会員に共通する事項については、常務会または理事会に上程しているが、これらの事項を除いては、原則として営業委員会限りで決定し、これを原告の決定としてきているものであつて、原告としてもこれを容認してきたものである。

以上のように認められ、参考人渡辺武夫の陳述中、右認定に反する部分は、審決が挙示する証拠に対比し容易に信用できないものと思料され、本件証拠によつても、他に右認定を不合理とすべき点は見当らない。

以上のとおりであるから、本件審決認定事実中、原告の営業委員会が一般石油製品の販売に関する事項等につき決定権限を有し、特別の事項を除き、その決定が原告の決定とされている、との点につき実質的証拠があるものというべきであつて、この点に関する原告の主張は理由がない。

2  原告は、本件審決認定事実中、昭和四六年二月二二日の会合が、外国の原油供給業者による原油販売価格引き上げの対策を検討するための営業委員会であつて、同委員会において、石油製品の品目別値上げ目標額を決定した、との点(審決理由第一の二の(一))につき実質証拠がない、と主張する。

しかしながら、審決挙示の証拠によれば、次の事実が認められる。すなわち、

世界の原油の需給事情は、昭和四四年ごろから需要の急増のため逼迫ぎみとなり、このため、昭和四五年一一月中旬、外国の原油供給業者から原告会員元売業者に対し、わが国で購入する原油の大部分を占めるペルシヤ湾沿岸産出の原油について、一バーレル当り平均一〇セント(一キロリツトル当り約二二五円)程度の値上げの通告があり(第一次値上げ)、ついで、同四六年二月中旬にいたり、再び外国の原油供給業者から原告会員元売業者に対し、同月一四日ペルシヤ湾沿岸六か国との間に締結したいわゆる五か年協定を理由として、ペルシヤ湾沿岸産出の原油の販売価格を同月一五日以降の船積み分から一バーレル当り平均二八・五セント(一キロリツトル当り約六四一円)引き上げる旨の通告があつた(第二次値上げ)が、その頃すでに同年六月一日以降の船積み分についても一バーレル当り平均・五セント(一キロリツトル当り約一四六円)程度の第三次の値上げがなされることが予想される状況にあり、また、これらペルシヤ湾沿岸産出の原油の値上げに応じて、アフリカ及び南方地域からの輸入原油についても値上げが必至と見込まれるにいたり、一部値上げの通告もおこなわれた。

原告営業委員会は、第一次の原油値上げ通告を受けて昭和四五年一二月一八日、その対策について検討した結果、このときまでに原油値上げ通告があつたのは産出国の一部であるが、その他の諸国の値上げ通告も必至であるとして、第一次原油値上り額を算定し、さらに、第二次の原油値上りが翌四六年二月ごろに実施されるとの予想のもとに、とりあえず、同四五年一二月から翌四六年三月までの四か月間における上記第一次原油値上り額を同四六年一月から三月までの三か月間に回収することとし、その間における石油製品の油種別値上げ目標額を、揮発油を除き、一キロリツトル当り、ナフサ二〇〇円、灯油五〇〇円、軽油六〇〇円、A重油五〇〇円、B重油五〇〇円、C重油三〇〇円等とすることを内定した。

ついで、営業委員会は、同四五年一二月二八日、揮発油についての値上げ目標額を検討したが、現状価格に一キロリツトル当り三〇〇円を上乗せする意見と第二次原油値上りを考慮し一挙に同一、〇〇〇円の値上げをする意見とが対立したため、その決定を後日に持ち越した。

昭和四六年一月からテヘランにおいて、オペツクとメジヤースとの間に原油公示価格等の引上げをめぐる交渉が開始されたが、オペツク諸国の強い結束と石油製品の世界的な逼迫事情等からメジヤースとしても、オペツク側の要求の大部分を受けいれざるを得ないとする見通しであり、この結果、第二次、第三次の大巾な原油値上りが必至と予想されるに至つた。

このような情勢に対処し、営業委員会は、同年一月の会合において、第二次及び第三次の原油値上り状況をも把握したうえで、改めて第一次を含めた全般的原油値上り対策を検討することを決定した。

この決定に基づき、営業委員会委員長渡辺武夫は、岡田一幸副委員長と協議した結果、同月中旬、重油専門委員長野田進一郎に対し、予測される第二次、第三次の原油値上り額及び第一次を含めこれらの値上りにともなう石油製品の油種別値上げ必要額を試算することを指示した。

この指示に基づき、野田重油専門委員長は、重油専門委員会の他の委員と協議した結果、同月下旬、「原油FOB値上り単価(45・11・13比)、等価比率による油種別ブレークダウン」等と題する試算表を作成した。

営業委員会は、昭和四六年二月一五日、東京都千代田区所在の経団連会館会議室で開催した会合において、オペツクとメジヤースとの間における原油の公示価格等の引上げに関する交渉が妥結し、同月一四日、協定が成立したとの報道につき、情報の交換をした。その結果、現在のところ、外国原油供給業者から原油値上げ時期および値上げ額の確報はないが、二、三日中にこの確報が入手できるので、営業委員会正副委員長が重油専門委員会と合議し、第一次及び第二次、第三次の原油値上り額とこれにともなう石油製品の油種別値上げ必要額を設定し、その設定を待つて緊急に営業委員会を開くこととした。

ところで、前記第二次原油値上げの通告は、外国原油供給業者から原告会員元売業者らわが国の石油会社に対し、昭和四六年二月一六日から一八日ごろの間におこなわれたが、前記のとおりこれによる値上げ額は、一バーレル当り平均二八・五セントであり、値上げ実施期日は、同月一五日船積分からであつた。

営業委員会は、その直後の同月一九日、三菱石油株式会社会議室において緊急委員会を開催した。その席上、まず野田重油専門委員長が、同専門委員会が設定した第一次から第三次までの原油値上り額およびこれにともなう石油製品の油種別値上げ必要額について、前記試算表等の資料に基づき次のように説明した。

(1) 原油FOB値上り単価については、原油の地域別購入比率を、従来のわが国輸入実績に基づき、中東地域八五パーセント、アフリカ地域二パーセント、南方地域一三パーセントとし、第一次から第三次までの各地域別値上り額をプールし、一キロリツトル当り、第一次二〇六円、第二次七四七円、第三次一二七円、合計で一、〇八〇円と算定し、製品得率を九七パーセントとして、製品換算で一、一一三円と算定した。

(2) 石油製品の油種別値上げ単価については、前記原油FOB値上り単価一、一一三円を、石油製品の総平均単価(販売数量による加重平均単価)に対する各油種別平均単価の比率、いわゆる等価比率で割り振ることとし、販売数量は、昭和四六年度石油製品供給計画中の内需向け生産量をとり、販売単価は日本銀行昭和四五年一二月石油製品卸売価格と石油業法に基づく届出価格のそれぞれを用い、二案を算定した。

この説明があつた後、同委員会において、石油製品の販売価格について検討した結果、日本銀行昭和四五年一二月卸売価格で算定した油種別値上げ単価を基礎とし、これに沿つて石油製品の販売価格の引上げをはかることとし、揮発油については、ナフサ、軽油、C重油等の値上げが容易でないので、同四六年三月一日から一挙に二、〇〇〇円を値上げすることを内定したが、その他の油種については、その値上げ額および値上げ時期について、さらに検討を加えることとした。

次いで昭和四六年二月二二日、営業委員会は、三菱石油株式会社会議室において、渡辺委員長以下一四委員出席のもとに会合を開き、「原油FOB(価格)UPに対する(石油製品の油種別)値上げ巾の水準決定」を議題とし、石油製品の販売価格の引上げについて協議した。

その席上、野田重油専門委員長が、第一次から第三次までの原油値上りにともなう石油製品の油種別値上げ額の設定について、前記試算表等に基づき、昭和四六年度石油供給計画中の内需向け生産量と日本銀行昭和四五年一二月石油製品卸売価格ほか四計算基礎を用い、ケース一から五までの各油種別値上げ必要額を算出し、さらに、ケース一を基礎にこれらを綜合し、石油製品の油種別値上げ目標額として、ケース〈A〉およびケース〈B〉の両案を算定する旨説明した。

この説明があつた後、同委員会において、検討の結果、第一次原油値上り直後の同四五年一二月の石油製品販売価格に対し、ケース〈A〉すなわち、キロリツトル当り

揮発油     二、〇〇〇円

ナフサ       八〇〇円

ジエツト燃料油 一、五〇〇円

灯油      二、〇〇〇円

軽油      一、五〇〇円

A重油     一、五〇〇円

B重油     一、〇〇〇円

C重油       九〇〇円

を値上げ目標とし、同四六年三月一日以降、それぞれ石油製品の販売価格を引き上げること、ただし、揮発油は、同年三月一日から少なくとも、まず一、〇〇〇円引き上げることを決定した。

なお、その際、今回の決定はその値上げ巾が大きいので、市場に与える影響を考慮し、渡辺委員長から決定を当時の原告会長出光計助らに報告しておくこととされたが、同月二三日の業界紙上で石油元売業者が前記値上げ目標額によつて値上げする旨が報道されたため、渡辺委員長は結局報告を中止した。

以上のうに認められ、本件証拠によつても、他に右認定を不合理とすべき点は見当らない。

これに対し原告は、二月二二日の会合は、原告の一会員元売業者の課長の説明を中心に、原油コスト・アツプに伴う負担増について、各油種別並びに全国統計的に試算と検討を行なつたもので、値上げ目標額の決定をしたものではない、と主張し、参考人渡辺武夫の陳述には、石油元売業界においては、日本石油株式会社が業界関係の各種調査の点で行き届いているので、同社の岡田常務取締役(営業委員会副委員長)と相談し、勉強家である同社の野田黒油課長(重油専門委員長)を選び、二月一九日および同二二日の各会合において、同人から今回の原油値上りにともなう国内石油製品価格への影響の度合いについて、マクロ的に試算した結果の説明を聞いたに過ぎないとの陳述があり、また、参考人野田進一郎の陳述にも、これと同趣旨の陳述がある。

しかしながら、右各参考人の陳述は、本件証拠によつて認められる次の事実、すなわち前記「原油FOB値上り単価(45/11/13比)等価比率による油種別ブレークダウン」等と題する試算表は、前記のように渡辺営業委員長の指示に基づき、野田重油専門委員長が他の重油専門委員と協議して作成したものであつて、一課長が個人的に作成したものではないこと、ゼネラル石油株式会社の販売部長付門坂直三が二月二二日の会合に出席し、その状況を社内報告文書として作成したものには、

「議題1原油FOBUPに対する、(油種別)値上巾の水準決定について(2/19報参照願度)」、

「決定事項(原油)FOBUPの値上巾はケース〈A〉とする」

との記載があること、共同石油株式会社の専務取締役井上清名義の同社三間会長あての二月の市況報告には、

「メジヤー対石油各社の交渉は続行中ですが、まず一〇〇%我が国にかぶされるとみる方が安全で、その場合、油種別に製品値上げをどう展開していくか、現在営業委員会で作業中であります。」

との記載があること、二月二二日の会合およびおの前後に開かれた営業委員会の協議内容を社内的に報告したものと認められる会員元売各社の文書等には、

「乞一読破棄」

「読後破棄」

「秘」

「厳秘」

「取扱注意」

「但し、全社¥二、〇〇〇は、FTC(註、公正取引委員会)の関係もあるので、代理店別に平均¥二、〇〇〇となるよう値上をする。」

「PAJ(註、石油連盟)の取決めだから等絶対に言わず、各社自主的に行う。」

「価格問題が具体化すると公取の働きが活発となるので、身辺は十分整理して貰い度い(文書の破棄、行動予定表、手帳迄充分の注意を願う。)。」

などと、その議事内容が外部特に被告に洩れないように特別の配慮をしたと認められる記載があることなどと対比すると、容易に信用できないものと思料される。

次に、参考人渡辺武夫の陳述には、二月二二日の会合は、今回の原油値上げに関し、情報を交換したに過ぎない有志の会であつて、このような有志の会は、従来から原告と関係なく、会員元売各社が交代で当番会社となり、持ち廻りで開催しているとの趣旨の陳述があり、また、査第二三号証、第三八号証、第八八号証、第九二号証等営業委員会の委員長ほか委員であつた者に対する審訊調書のなかにはこれと同趣旨の供述記載も見受けられる。

しかしながら、本件証拠中、原告及び会員元売各社から得られた書類中の前記二月二二日の会合についての記載には、同会合が有志の会であるとするものはないのみならず、二月二二日及びその前後における原告会員元売業者各社の販売、営業担当関係者の会合に出席したと認められる者の手帳、ノート並びにこれらの者が作成したと認められる報告文書その他の書類によれば、これらの者が一様に前記会合を営業委員会であるとしていたことが明らかであり、また二月二二日の会合においては、前記のように、営業委員会の下部機関の一つである重油専門委員会の野田委員長が渡辺営業委員長の指示に基づき、同専門委員会で算定した今回の原油値上り額及びこれにともなう石油製品の油種別値上げ目標額について説明を行い、かつ、これに基づき石油製品の油種別値上げ目標額を決定しているものであつて、かかる点からみても、前記陳述ないし供述は容易に信用できないものと思料される。

なお、本件証拠中の査第一九号証の一ないし三には、二月二二日等の会合を「営業常務会」としている記載があるが、これは本件証拠中の査第四六号証の「営業常務会」とは「営業委員会」の誤りである旨の記載及び前述したように営業委員会の構成員は原告会員元売各社の営業担当の常務取締役等であることなどを考え合わせれば、それは前記認定を左右するものとは思えない。

以上のとおりであるから、本件審決認定事実中、昭和四六年二月二二日の会合が、外国の原油供給業者による原油販売価格引き上げの対策を検討するための営業委員会であつて、同委員会において、石油製品の品目別値上げ目標額を決定した、との点につき実質的証拠があるものというべきであつて、この点に関する原告の主張は理由がない。

3  原告は、本件審決認定事実中、原告会員元売業者が前記決定に基づき、それぞれ石油製品の値上げ額を定め、おおむね、所定の期日から、揮発油については前記決定額のとおりに、その他の石油製品については前記決定額を目標として、販売価格を引き上げている、との点(審決理由第一の二の(二))につき実質的証拠がないと主張する。

しかしながら、審決挙示の証拠によれば次の事実が認められる。すなわち、

原告会員元売業者各社は、二月二二日の決定において昭和四六年三月一日からキロリツトル当り(以下、いずれもキロリツトル単位であるので単位の記載を省略する)二、〇〇〇円のうち少くとも一、〇〇〇円は引き上げることとされている揮発油については、おおむね同決定後まもなく各自自社の値上げ額を設定して、これを本社から各支店長、営業所長等、個々の取引の相手方との価格折衝の責任者に指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。すなわち、

(1) 三菱石油株式会社は、同年三月五日の支店長会議において、各支店長等に同月一日から揮発油を一、〇〇〇円値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して三月一日にさかのぼつて一、〇〇〇円値上げする旨の通知をした。

(2) 出光興産株式会社は、同年二月末か三月初めころ、電話等により、各支店等に四月一日から揮発油を二、〇〇〇円、ただしこれを三月から逐次分割して値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(3) 日本石油株式会社は、同年二月二五日ごろ、電話等により、各支店長等に三月一日から揮発油を一、〇〇〇円値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上額を通知した。

(4) 丸善石油株式会社は、同年二月二五日の全国企画課長会議において、各支店の企画課長等に二月二二日の決定にかゝる値上げ目標額を示し、次いで同月二七日ごろ、電話等により、各支店長等にこの値上げ目標額によつてすみやかに値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して三月一六日から揮発油を一、〇〇〇円値上げする等の通知をした。

(5) 共同石油株式会社は、同年二月末ごろ、テレツクス等により、各支店長等に三月一日から揮発油を一、〇〇〇円値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(6) 大協石油株式会社は、同年二月二六日の支店長会議において、各支店長等に四月一日から揮発油を二、〇〇〇円、ただし三月一日からその半額以内を値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上額を通知した。

(7) 昭和石油株式会社は、前記昭和四六年二月一九日の営業委員会において内定した揮発油につき三月一日から二、〇〇〇円値上げする旨の値上案が同月二二日の営業委員会でも修正されることなく決定されるものと見通していたところから、同二二日の支店長会議において各支店長等にこの営業委員会での内定額を示して三月から四月にかけて揮発油を値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(8) ゼネラル石油株式会社は、同年二月一八日、九日の支店長会議において、支店長等に三月一日から揮発油の一、〇〇〇円値上げを指示していたが、二月二二日の決定後である同年三月中旬に、テレツクス等により、各支店長等に対し、右三月一日からの一、〇〇〇円値上げを含め四月一日から二、〇〇〇円値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(9) 九州石油株式会社は、二月二二日決定にかゝる値上げ目標額に基づき同年二月二七日ごろ、テレツクス等により、支店長等に三月一五日から揮発油を一、〇〇〇円値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(10) 日本漁網船具株式会社は、同年三月九日ごろ、電話等により、各営業所長等に四月一日から本社の各営業所に対する揮発油の社内仕切価格(営業所は、本社からの仕切価格に営業所のマージンを上乗せした価格で取引先に販売している)を一、七〇〇円引き上げるので、各営業所は、これに応じて、出来れば三月から値上げするよう指示し、これによりただちに営業所長等から取引先に対して三月一日にさかのぼつて一、〇〇〇円値上げする等の通知をした。

(11) 太陽石油株式会社は、揮発油についてはすべてシエル石油株式会社に販売することになつていたので、各支店長等に格別の指示をしていない。

(12) シエル石油株式会社は、同年二月二三日の支店長会議において、各支店長等に三月一日から揮発油を二、〇〇〇円値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(13) エツソ・スタンダード石油株式会社は、同年二月二五日の支店長会議において、各支店長等に三月、四月にかけて揮発油につき二、〇〇〇円値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して二、〇〇〇円値上げする等の通知をした。

(14) モービル石油株式会社は、同年二月二五日の支店長会議において、各支店長等に二月二二日の決定にかかる値上げ目標額を示し、この目標額によつて三月一日から値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対し揮発油を三月一日から一、〇〇〇円値上げする等の通知をした。

さらに、原告会員元売業者各社は、前記揮発油の三月分値上げの指示と同時に、または遅くとも同年三月三〇日ごろまでに、その他の各油種につき、各自前記決定額に基づく自社の四月一日以降分の値上げ額を設定して本社から各支店長等に指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。すなわち、

(1) 三菱石油株式会社は、同年三月二九日に、テレツクス等により、各支店長等に四月一日から、

揮発油       二、〇〇〇円(ただし対二月比、対三月比では一、〇〇〇円)

ナフサ         七〇〇円

ジエツト燃料油   一、〇〇〇円

灯油一般向け    一、〇〇〇円

工業用       一、二〇〇円~一、五〇〇円

軽油一般向け      九〇〇円以上

バス、トラツク向け   八〇〇円以上

A重油 課税品   一、〇〇〇円

免税品   一、二〇〇円

B重油         八〇〇円

C重油         八〇〇円

をそれぞれ値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(2) 出光興産株式会社は、三月からの揮発油の値上げについての前記二月末から三月初めころの指示と同時に、同様の方法で、各支店長等に四月一日から、

揮発油       二、〇〇〇円(ただし三月から逐次分割して値上げ)

ナフサ         八〇〇円

ジエツト燃料油   一、〇〇〇円

灯油        一、〇〇〇円

軽油        一、〇〇〇円

A重油

B重油         七〇〇円~一、〇〇〇円

C重油

をそれぞれ値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(3) 日本石油株式会社は、同年三月三〇日の支店長会議において、各支店長等に四月一日から、

揮発油       一、〇〇〇円

ナフサ         八〇〇円

ジエツト燃料油   一、〇〇〇円

灯油        一、〇〇〇円

軽油        一、〇〇〇円

A重油       一、〇〇〇円

B重油         八〇〇円

C重油         七〇〇円

をそれぞれ値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(4) 丸善石油株式会社は、三月からの揮発油の値上げについての前記指示と同時に、同様の方法で各支店長等に二月二二日の決定にかかる値上げ目標額によつて値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(5) 共同石油株式会社は、三月からの揮発油の値上げについての前記指示と同時に、同様の方法で、各支店長等に四月一日から、

揮発油       一、〇〇〇円

ナフサ         七〇〇円~八〇〇円

ジエツト燃料油   一、〇〇〇円

灯油        一、五〇〇円

軽油        一、〇〇〇円

A重油       一、〇〇〇円

B重油         八〇〇円

C重油         七〇〇円

をそれぞれ値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(6) 大協石油株式会社は、三月からの揮発油の値上げについての前記指示と同時に、同様の方法で、各支店長等に四月一日から、

揮発油       二、〇〇〇円(ただし三月分に値上げした分を除く)

ナフサ       一、〇〇〇円

ジエツト燃料油   一、五〇〇円

灯油        一、五〇〇円

軽油        一、〇〇〇円

A重油       一、〇〇〇円

B重油       一、〇〇〇円

C重油         九〇〇円

をそれぞれ値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(7) 昭和石油株式会社は、三月からの揮発油の値上げについての前記指示と同時に、各支店長等に二月二二日の決定にかかる値上げ目標額と同一の値上げ額を示し、この目標額によつて値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。なお、同社は、同日の営業委員会において見通しどおりの値上げ目標額が決定されなかつた場合には各支店長等に指示をしなおす考えであつたが、見通しどおりの決定が行われたので指示を変更していない。

(8) ゼネラル石油株式会社は、同年三月中旬に、テレツクス等により、各支店長に四月一日から、

揮発油       二、〇〇〇円

ナフサ         五〇〇円

ジエツト燃料油   一、〇〇〇円

灯油       工業用七〇〇円~八〇〇円

軽油        一、〇〇〇円

A重油       一、〇〇〇円

B重油       一、〇〇〇円

C重油         七〇〇円

をそれぞれ値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対し値上げ額を通知した。

(9) 九州石油株式会社は、同年三月三〇日ごろ、テレツクス等により、支店長等に四月一日から、

揮発油       一、〇〇〇円

ナフサ         五〇〇円

灯油        一、〇〇〇円

軽油        一、〇〇〇円

A重油       一、〇〇〇円

B重油         八〇〇円

C重油         七〇〇円

をそれぞれ値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(10) 日本漁網船具株式会社は、同年三月九日ごろ、電話等により、各営業所長等に四月一日から本社の各営業所に対する社内仕切価格を、

揮発油       一、七〇〇円

ナフサ         三〇〇円

ジエツト燃料油   一、四〇〇円

灯油        一、二〇〇円

軽油        一、一〇〇円

A重油       一、三〇〇円

B重油         九〇〇円

C重油         七〇〇円

それぞれ引上げるので、各営業所はこれに応じて値上げすることを指示し、これによりただちに営業所長等から取引先に対して、それぞれ値上げ額を通知した。

(11) 太陽石油株式会社は、同年三月一二日の営業会議において、各支店長等に四月一日から、

ナフサ         五〇〇円

灯油        一、四〇〇円

軽油        一、四〇〇円

A重油         九〇〇円

B重油         九〇〇円

C重油         六五〇円

をそれぞれ値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(12) シエル石油株式会社は、三月一日からの揮発油の値上げについての前記指示と同時に、各支店長等に四月一日からの値上げ額として、二月二二日決定にかかる値上げ目標額と同額の、

ナフサ         八〇〇円

ジエツト燃料油   一、五〇〇円

灯油        二、〇〇〇円

軽油        一、五〇〇円

A重油       一、五〇〇円

B重油       一、〇〇〇円

C重油         九〇〇円

を示し、その後電話等により、値上げの実施を指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(13) エツソ・スタンダード石油株式会社は、三月からの揮発油の値上げについての前記指示と同時に、同様の方法で、各支店長等に二月二二日の決定にかかる値上げ目標額と同一の額を示し、当社も例外ではないとして、三月、四月にかけ、

灯油        二、〇〇〇円

軽油        一、五〇〇円

等の値上げをすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

(14) モービル石油株式会社は、三月からの揮発油の値上げについての前記指示と同時に、同様の方法で、各支店長等に二月二二日の決定にかかる値上げ目標額を示し、この目標額によつて値上げすることを指示し、これによりただちに支店長等から取引先に対して値上げ額を通知した。

以上の取引先に対する値上げ額通知の結果、昭和四六年五月中旬ないし六月中旬現在、原告会員元売業者各社と取引先との間では、会社によつて値上げ額に多少の相違はあるが、各社の一部あるいは、かなりの部分において、

揮発油     三月一、〇〇〇円、四月一、〇〇〇円程度ないし三、四月合わせて

一、七〇〇円ないし二、〇〇〇円程度

ナフサ     五〇〇円ないし八〇〇円程度

ジエツト燃料油 四〇〇円ないし一、三〇〇円程度

灯油      七五〇円ないし二、〇〇〇円程度

軽油      五〇〇円ないし一、七〇〇円程度

A重油     五〇〇円ないし一、四〇〇円程度

B重油     五〇〇円ないし一、〇〇〇円程度

C重油     六五〇円ないし一、〇〇〇円程度

の各値上げが実現し、値上げ未了分については、各社とも各支店、営業所等において、なお値上げを達成すべく努力中である。

以上のように認められ、右認定事実によれば、本件審決認定事実中、原告会員元売業者が前記決定に基づき、それぞれ石油製品の値上げ額を定め、おゝむね所定の期日から揮発油については前記決定額のとおりに、その他の石油製品については前記決定額を目標として、販売価格を引上げているとの事実は、優にこれを認定あるいは推認することができ、本件証拠によつても、他にこの認定あるいは推認を不合理とすべき点は見当らない。

右に対し、原告は、本件審決開始決定以前の昭和四六年三月下旬ころ、通商産業省鉱山石炭局石油計画課長から、原告及び会員元売業者に対し、原油コスト・アツプに伴う負担増分の全額を需要者に転嫁することは適当でない、バーレル当り一〇セント分を石油業界が負担し、残余の製品換算キロリツトル当り平均八六〇円については、これを需要者に転嫁することもやむを得ないとする行政指導の大綱の内示され、同年四月二二日原告営業委員会の席上、会員元売業者に対し更に明確、具体的に右行政指導を徹底する措置をとつた結果、その後においては、原告ないし原告会員元売業者は、二月二二日の決定といわれるものを放棄し、右行政指導に従つた価格行動に転換しているから、右行政指導が行われた以後、二月二二日の決定といわれるものの効力は消滅し、その後の原告会員元売業者の価格行動は、二月二二日の決定といわれるものと無関係であると主張する。

しかしながら、原告主張の行政指導なるものは、その主張するところによつても、通商産業大臣が法律上の強制権限に基づいて行うものではなく、通商産業省当局の単なる指導にとどまるものであるとともに、その内容においても、原油コスト・アツプに伴う負担増分の全額を需要者に転嫁することは適当でないが、製品換算キロリツトル当り八六〇円の限度で、これを需要者に転嫁することはやむを得ないとするもので販売価格の引き上げを指導したものでもなく、その販売価格の引き上げを決定した二月二二日の決定とはその内容を異にするものであつて、もとより右決定を消滅させ、準拠すべき新たな価格を設定したものではないから、右行政指導に従いつゝ二月二二日の決定に従うことも不可能でなく、かりに個々の原告会員元売業者がこの行政指導なるものの事実上の強制力によりこれに従うことを余儀なくされたため、二月二二日の決定に基づく値上げの目標を完全に達成できなかつたとしても、その達成した範囲内では、それが二月二二日の決定に基づく値上げでないとはいえないし、もとより個々の原告会員元売業者が右行政指導なるものに事実上従つたからといつて、そのため二月二二日の決定の拘束力が消滅し、原告会員元売業者のその後の価格行動が右決定に基づくものでなくなるものともいえない。

のみならず、本件証拠によれば、前記のとおり、原告会員元売業者各社は、原告主張の行政指導なるものが行われる以前において、すでに二月二二日の決定に基づき、石油製品の値上げ額をその取引先に通告し、おおむね、石油製品の販売価格を引き上げているうえ、さらに右行政指導なるものが行われた後の同年五月中旬ないし六月中旬現在においても、会員元売業者各社の各支店、営業所等においては、その値上げ未了分の値上げ達成のため市況等をみながら可能な範囲で努力中であることが明らかであつて、その間及び本件審判開始決定のときまでに原告が二月二二日の決定を破棄し、あるいは値上げの申入れを撤回させるなどの破棄に準ずる措置をとつた形跡はなく、他に二月二二日の決定が消滅したとすべき特段の事情も認められないのである。

この点につき左記のとおり武信光ほか左記六名の参考人らは、右行政指導なるものがあつた後、ないしはその前ではあるが、右行政指導なるものがあることを察知した時点において、左記各社がそれまでに設定し実施していた値上げ額ないし値上げの方針を変更もしくは修正したとの趣旨の陳述をしているが、以下詳述するとおり、本件証拠によつて認められる事実と対比すると容易に信用できないものと思料される。

(1) 三菱石油株式会社について

武信光参考人(本件当時、同社販売運輸担当取締役)は、同社が昭和四六年三月二九日にテレツクス等で各支店長に指示した価格は、当時、通商産業省の行政指導を事前に察知したため、一〇セントかぶりの線におおむね見合う八八〇円平均の線で決定した値上げ額である、ただし、この時点では、灯油についての行政指導の厳しい内容はわからなかつたので、右指示価格中灯油に関する部分は行政指導の趣旨に沿つたものではなかつたから、後に五月一二日ごろの支店長会議において各支店長に行政指導の趣旨を話したという趣旨の陳述をしている。

しかしながら、三月二九日の指示が前記行政指導に沿つたものであるならば、その指示内容は値上げ額の上限を示すものでなければならないものなのに、軽油について、

一般向け      九〇〇円以上

バス・トラツク向け 八〇〇円以上

というように値上げの下限が指導され、また、実際にも、同社において九〇〇円を上廻わる値上げが行われていること、また、灯油につき同社の各支店等においては、三月二九日の、

一般向け 一、〇〇〇円

工業用  一、二〇〇円~一、五〇〇円

という指示に従つて、昭和四六年五月中旬ないし六月上旬現在もなお値上げ未了分の値上げ達成のため努力中であつて、五月一二日ごろに別途の指示がなされた形跡は認められないこと、など本件証拠によつて認められる事実と対比すると、武信参考人の前記陳述は容易に信用できないものと思料される。

(2) 出光興産株式会社について

富永武彦参考人(本件当時、同社取締役販売部長)は、同社において、昭和四六年二月四日付の文書で、各支店長に対し、原油の第一次値上り分および第二次値上り予想分に対応する石油製品の価格引上げの通知をした後、三月末ごろに、通商産業省から一〇セントかぶれという指導が近く行われるということを事前に知つたため、四月九日付文書をもつて、この指導に沿うように変更した引上げ額を各支店長に通知した、それ以外に電話等での指示はないという趣旨の陳述をしている。

しかしながら、前記二月四日付および四月九日付の両文書による通知は、いずれも本社から、社内的に独立採算制をとつている支店に対し形式上販売する形をとるについての社内仕切価格の引上げないしはその訂正の通知であつて、支店の取引先に対する販売価格についての指示ではないこと、同社は、取引先に対する販売価格の引上げについては、前記のとおり、別途に二月末か三月初めごろ支店長等に指示しており、支店等においては、六月上旬現在においても、この指示に従つて、値上げ未了分の値上げ達成のため努力中であり、前記二月末から三月初めごろの指示以後、別途取引先に対する販売価格の引上げ額についての指示がなされた形跡はないなど、本件証拠によつて認められる事実と対比すると富永参考人の前記陳述は、容易に信用できないものと思料される。

(3) 日本石油株式会社について

松浦達也参考人(本件当時、同社取締役販売部長)は、同社が昭和四六年三月三〇日の支店長会議において示した予算上の値上げ額は、全油種平均で約六〇〇円値上げの線であつたが、その後、行政指導があつたので、これに沿つて、六月末に全油種平均八〇〇円値上げの線で予算上の値上げ額を修正したという趣旨の陳述をしている。

しかしながら、右予算上の値上げ額なるものは、利益計画との関連で算出した値上げの社内的最低責任額に過ぎず、実行価格として指示された値上げ額は、この予算上の責任額の二倍ないし三倍に達していること、したがつて、この予算上の値上げ額約六〇〇円をさらに約八〇〇円の線に増額修正した段階においては実行値上げ額が行政指導にいう平均約八六〇円の線を遙かに上廻るものとなることなど、本件証拠によつて認められる事実と対比すると、松浦参考人の前記陳述を根拠に日本石油株式会社が行政指導に沿つて実行価格を修正したと認めることは相当でない。

(4) 丸善石油株式会社について

金山哲三参考人(本件当時、同社営業企画部次長)は、同社においては、行政指導があつたので、その後、昭和四六年四月二七日前後ごろ各支店に対し、揮発油の値上げ額は動かせないが、その他の油種については、全油種平均約二三五円相当分はかぶらなければならない旨の指示をしたという趣旨の陳述をしている。

しかしながら、前記のとおり、同社の各支店等においては、同年五月中旬ないし六月中旬現在なお、値上げ未了分の値上げ達成のため努力中であること、この間平均二三五円相当分をかぶる旨の値上げ額の減額修正の指示が行われた形跡はないことなど、本件証拠によつて認められる事実と対比すると、金山参考人の前記陳述は容易に信用できないものと思料される。

(5) 共同石油株式会社について

松井達夫参考人(本件当時同社取締役販売部長)は、同社において、第一次から第三次までの原油の値上りにともなう製品の値上げを支店に指示したのは、昭和四六年二月二日付テレツクス及び同年三月三〇日付テレツクスによる二回だけであり、二月二日付の指示は第一次原油値上りにともなう製品値上げの指示であり、三月三〇日付の指示は第一次から第三次までの原油値上りにともなう製品の値上げ額を行政指導による一〇セント相当分だけかぶるように修正したものであるという趣旨の陳述をしている。

しかしながら、前記テレツクスは、ともに予算上の値上げ幅についての社内通知文書であつて、これらに記載されている金額は、本社から、社内的に独立採算制をとつている支店に対し形式上販売する形をとるについての社内仕切価格(の引上げ額)であつて、支店の取引先に対する販売価格(の引上げ)についての指示ではないこと、前記のとおり、同社は、取引先に対する販売価格の引上げについては、二月末ごろ各支店等に指示しており、各支店等においては、同年五月中旬ないし六月中旬現在、この二月末ごろの指示に基づき、値上げ未了分の値上げ達成のため努力中であることが明らかであり、この間四月中旬の支店長会議において、この二月末ごろの値上げの指示について再確認された事実さえも認められるなど、本件証拠によつて認められる事実と対比すると、松井参考人の前記陳述は容易に信用できないものと思料される。

(6) シエル石油株式会社について

大江哲郎参考人(本件当時、同社営業企画部部長補佐)は、同社においては、行政指導があつたので、建値価格は変更しなかつたが、昭和四六年四月中に全油種平均八六〇円を油種別に展開した数値を各支店に指示するとともに、本社において、建値価格とこの数値との差に応じてリベート予算を計上したという趣旨の陳述をしている。

しかしながら、前記のとおり、同社は、同年二月二三日の支店長会議において、二月二二日の決定にかかる値上げ目標額と同じ額を値上げ額として支店長等に指示し、各支店においては、同年五月中旬ないし六月上旬現在、この二月二三日の指示に基づき、値上未了分の値上げ達成のため努力中であつたもので、この間全油種平均八六〇円の線での減額修正の指示がなされた形跡はないことなど、本件証拠によつて認められる事実と対比すると、大江参考人の前記陳述は容易に信用できないものと思料される。

(7) モービル石油株式会社について

田原剛参考人(本件当時、同社小売部長)は、行政指導があつたので、同社の本社においては、将来市況が全油種平均八六〇円という行政指導の線に到達するようになつた時点で措置をとることを決定したが、市況がそこまで行かなかつたので、支店に対しては何ら具体的な措置はとらなかつたという趣旨の陳述をしている。

しかしながら、同社が、行政指導に従う旨の決定をしたのであれば、前記のとおり、昭和四六年二月二五日の支店長会議での値上げ指示額が二月二二日の決定どおりであつて上記行政指導の八六〇円を大きく上廻つている以上、直ちに各支店等に減額修正を指示して然るべき筈であるのに、かゝる措置はなんらとつていないうえ、前記のとおり、各支店等においては、同年五月中旬ないし六月上旬現在、前記二月二五日の指示に従つて値上げ未了分の値上げ達成のため努力中であることなど、本件証拠によつて認められる事実と対比すると、田原参考人の前記陳述は容易に信用できないものと思料される。

以上のとおりであるから、本件審決認定事実中、原告会員元売業者が前記決定に基づき値上げ額を定め、おゝむね、所定の期日から、揮発油については決定額どおりに、その他の石油製品については決定額を目標として、販売価格を引き上げている、との点につき実質的証拠があるというべきであり、この点に関する原告の主張は理由がない。

(二)  判断遺脱、理由不備について

1  原告は、原告が審判手続において、二月二二日の決定といわれるものが行政指導に起因して消滅したと主張したのに対し、本件審判において行政指導が法律上の権限に基づくものでないことのみを理由として右主張を排斥したのは、原告の主張の誤解に基づき審決に影響を及ぼすべき重要な争点についての判断を遺脱したもので理由不備の違法があると主張する。

しかしながら、本件審決は、その理由の第一の二の(二)において、二月二二日の決定といわれるものが行政指導に起因して消滅したとの原告主張と相容れない事実たる原告会員元売業者らの昭和四六年四月以降のものを含む価格行動をも認定したうえ、その説示に原告にとつて不十分、不満足な点があるとしても、その理由第三の一の(一)(二)において、二月二二日の決定(の効力)が消滅したとの原告主張が採用できない旨判断しているのである。そして、本件証拠上、二月二二日の決定が原告主張の行政指導なるものに起因して消滅したと認められないことは前述したとおりであるから、本件審決の右判断は、結局正当というべきである。

以上のとおりであるから、本件審決には、前記原告主張のような審決に影響を及ぼすべき判断遺脱、理由不備があるとはいえず、この点に関する原告の主張は理由がない。

2  原告は、原告が行政指導を原告会員元売業者に伝達あるいは周知徹底せしめたことは、二月二二日の決定といわれるものを破棄する行為に相当し、これによつて右決定は消滅した、と主張したのに、本件審決がこれに対する判断を示していないのは、審決に影響を及ぼすべき原告の主張、立証についての判断遺脱であつて理由不備の違法があると主張する。

しかしながら、本件審決は、その理由の第三の一の(一)(二jにおいて、本件全証拠にてらして原告が二月二二日の決定を破棄し、または破棄に準ずる措置をとつた形跡は認められないとして、右決定に基づく違法状態が消滅したとの原告の主張を排斥しているのである。そして、原告がその主張の行政指導なるもの(それが、販売価格を引上げることを指導したものでないことは前述のとおりである。)を会員元売業者に伝達あるいは周知徹底せしめたからといつて、それをもつて直ちに前記決定の破棄等、右決定の拘束性を消滅させる行為であるとはいえないし、また本件証拠上、他に右決定の破棄あるいは破棄に準ずる措置等右決定の拘束性を消滅させる行為がなされた事実は認められないことは前述したとおりであるから、本件審決の前記判断も結局正当というべきである。

以上のとおりであるから、本件審決には、前記原告主張のような審決に影響を及ぼすべき判断遺脱、理由不備があるとはいえず、この点に関する原告の主張は理由がない。

(三)  法令の解釈適用の過誤について

原告は、独禁法第五四条第二項後段及び独禁法の他の条項には、同法の違反行為がなくなつたとするための原因、名義、方式について特段の定めがないのに、本件審決が、二月二二日の決定につき、その破棄または破棄に準ずる措置をとらなければ、これに基づく違反行為がなくなつたとはいえないとしているのは、法令の解釈、適用を誤つたものである、と主張する。

しかしながら、事業者団体の独禁法に違反する決定が消滅したとするためには、必らずしも常にその決定の破棄あるいは破棄に準ずる措置がなければならないものではないけれども、本件のように、原告主張の行政指導なるものが行われた後も、原告会員元売業者が二月二二日の決定に基づく価格行動をとつていると認められ、右決定の拘束性が消滅したとすべき形跡もないような前記事情のもとでは、右決定が消滅したとするためには、原告による右決定の破棄あるいはこれに準ずる何らか特段の措置がなされたことが認められる必要があることは明らかであつて、本件審決も、その説示にやゝ不十分な点はあるけれども、その全体を詳細に検討すれば、右と同趣旨の見解に基づいて違法行為である二月二二日の決定がなくなつたとは認めず、本件に独禁法第五四条第二項後段を適用しなかつたものであり、右判断は結局正当というべきである。

以上のとおりであるから、本件審決には法令の解釈、適用に誤りがあるとはいえず、この点に関する原告の主張は理由がない。

(四)  審判手続の違法について

原告は、本件審判手続において、勧告主文の排除措置の内容について釈明を求めたのに対し、審査官は釈明を拒否し、この点について何ら審理されないまゝ審判手続を終了したのは、重大な手続違背、審理不尽の違法がある、と主張する。

しかしながら、審判手続において被審人(または代理人)は、当該事件の事実上及び法律上の事項に関し、相手方たる審査官の陳述の趣旨が明らかでないときは、審判官の許可を得て、直接に審査官に発問することができるけれども(公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第三九条第二項)、審判官において、勧告主文の排除措置の内容についてまで(それが、そのまゝ審決において命じられる排除措置の内容となることがあるとしても)、しかも審査官がその釈明の必要がないものとしているような場合にまで、なお審査官にその釈明をさせる必要はないと思料されるから、本件において、審判官がこの点につき、審査官にさらに釈明を求めることなく審判手続を終了したとしても、何ら違法、不当ではない。

以上のとおりであるから、本件審判手続に手続違背、審理不尽の違法があるとはいえず、この点に関する原告の主張は理由がない。

(五)  審決主文の違法について

1  原告は、本件審決主文の二が原告のとつた措置等を会員元売業者をして取引の相手方に周知徹底させなければならないと命じているのは、法律上不可能を強いるものであるから違法である、と主張する。

しかしながら、右主文の会員元売業者をして取引の相手方に周知徹底させなければならないとの命令は、事業者団体である原告において、その統制的機能に基づき、各会員元売業者に指示をして、それぞれの取引の相手方に周知徹底させるよう努めることを命じているものと解せられ、このような命令の趣旨の履行がなされた以上、かりに会員元売業者の中で、原告の指示に従わず周知徹底させることを拒否するものがあつたとしても、原告が右命令の不履行責任を問われるというものではないから、右主文は原告に不可能を強いるものとはいえない。

以上のとおりであるから、右主文の二は違法とはいえず、この点に関する原告の主張は理由がない。

2  原告は、本件審決主文の三の、目標価格及び実施時期を決定する等の方法により会員元売業者の意思の統一を図る行為をしてはならないとの命令は、抽象的かつ具体性を欠く不明確なもので不能を強いるものであるから違法である、と主張する。

しかしながら、右主文の三は、本件審決の定める排除措置の内容ないし目的を考え、社会通念に従つて、これを合理的に解釈するならば、決して抽象的かつ具体性を欠く不明確なものではなく、将来のいかなる行為を禁止したかはおのずから明らかであり、また原告に不能を強いるものともいえない。右主文の三は、原告が二月二二日決定のごとき違法行為をし、その違法状態が継続していると認められるところから、将来においても右決定と同様な方法により会員元売業者の事業活動を拘束する行為をしないよう、これを禁止したものであつて、何ら違法とすべき点はない。

以上のとおりであるから、右主文の三は違法とはいえず、この点に関する原告の主張は理由がない。

四  以上のとおり、原告の主張はすべて理由がないから、本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、失当として棄却を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 青木義人 江尻美雄一 小林信次 蕪山厳 篠原幾馬)

(別紙)

昭和四十六年(判)第四号

審決

東京都千代田区大手町一丁目九番四号 (経団連会館ビル内)

被審人        石油連盟

右代表者会長     密田博孝

右被審人代理人弁護士 入江一郎

同          加藤一芳

同          藤堂裕

公正取引委員会は、右被審人に対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反事件について、昭和四十八年九月十七日審判官吉野秀雄、同辻吉彦及び同片柳正明が当委員会に提出した審決案を調査し、事件記録に基づき次のとおり審決する。

主文

一 被審人は、昭和四十六年二月二十二日に行なつた揮発油、ナフサ、ジエツト燃料油、灯油、軽油、A重油、B重油及びC重油(以下「石油製品」という。)の販売価格の引上げに関する決定を破棄し、その旨を会員である元売業者並びに精製業及び元売業を兼業している者(以下「会員元売業者」という。)に周知徹底させなければならない。

二 被審人は、前項に基づいてとつた措置及び今後会員元売業者の石油製品は、会員元売業者がそれぞれ自主的に決めた価格で販売される旨を、自ら、石油製品の需要者及び会員元売業者の取引の相手方に、また、会員元売業者をして、それぞれの取引の相手方に周知徹底させなければならない。

この周知徹底の方法については、あらかじめ当委員会の承認を受けなければならない。

三 被審人は、今後、会員元売業者の石油製品の販売価格の引上げについて、目標価格及び実施時期を決定する等の方法により、会員元売業者の意思の統一を図る行為をしてはならない。

四 被審人は、第一項及び第二項に基づいてとつた措置について、すみやかに当委員会に報告しなければならない。

理由

第一事実

一(一) 被審人は、肩書地に事務所を置き、石油の精製業者、一般石油製品の元売業者並びに精製業及び元売業を兼業している者を会員とし、石油業の健全な発達を図ることを目的として昭和三十年十一月一日に設立された任意団体である。しかして、昭和四十六年二月末日現在、会員数は三十名であつて、このうち会員元売業者の数は十四名であり、これら会員元売業者の石油製品のそれぞれの販売量の合計は、いずれも我が国における当該製品の総販売量の大部分を占めている。

(二) 被審人は、会員の代表者をもつて構成する理事会及び会員の常務取締役らをもつて構成する常務会を置くほか、各種常設の委員会を設けている。

しかして、これら常設の委員会のうち、営業委員会は、会員元売業者の営業を担当する役員らをもつて構成され、一般石油製品の販売に関する事項、流通機構に関する事項、給油所に関する事項等を審議決定しており、同委員会の決定は、特に経費の支出を必要とする事項等を除き、被審人の決定とされている。

二(一) 被審人は、昭和四十五年十一月中旬ごろ及び昭和四十六年二月中旬ごろ、外国の原油供給業者からその取引の相手方である会員に対し、原油の販売価格を引き上げる旨の通知があつたため、営業委員会等においてその対策を検討してきたところ、昭和四十六年二月二十二日、東京都港区所在の三菱石油株式会社会議室で開催された営業委員会において、前記二回にわたる通知などによる原油の一キロリツトル当りの平均値上げ額約一千八十円を製品換算すると一千百十三円となるとし、これに基づく石油製品の品目別値上げ額を検討した結果、

ア 会員元売業者は、石油製品の販売価格を一キロリツトル当り、次の値上げ額を目標として引き上げること

揮発油       二千円

ナフサ       八百円

ジエツト燃料油 一千五百円

灯油        二千円

軽油      一千五百円

A重油     一千五百円

B重油       一千円

C重油       九百円

イ 前記販売価格の引上げは、揮発油については、昭和四十六年三月一日以降、その他の石油製品については、同年四月一日以降実施すること、ただし、揮発油は、同年三月一日から少なくとも一キロリツトル当り一千円引き上げること

を決定した。

(二) しかして、会員元売業者は、前記決定に基づき、それぞれ石油製品の値上げ額を定め、これを取引の相手方に通知し、おおむね、所定の期日から、揮発油については前記決定額のとおりに、その他の石油製品については前記決定額を目標として販売価格を引き上げている。

第二証拠

右事実一の(一)の事実については、昭和四十六年八月三十一日付答弁書において被審人が認めて争わないところである。

同一の(二)の事実については、

一 査第一号証の四、査第十三号証の一及び査第十九号証の三

一 参考人渡辺武夫(第五回速記録)の陳述

一 査第四号証、査第二十三号証、査第二十六号証、査第二十七号証、査第三十二号証、査第三十五号証ないし査第三十八号証、査第四十五号証、査第五十一号証、査第五十二号証、査第五十四号証ないし査第五十八号証、査第六十二号証及び査第八十八号証の各審訊調書の記載

同二の(一)の事実については、

一 査第五号証の一、査第十一号証の一及び二、査第十二号証の一、二、四及び五、査第十三号証の一、査第十五号証、査第十九号証の一ないし三、査第二十号証の一、査第二十一号証の一、査第二十二号証、査第六十七号証の一、査第七十号証の一及び二、査第七十三号証の一ないし四、査第七十四号証の一ないし五、査第七十五号証の一ないし四、査第七十六号証の一、査第八十一号証の一及び二、査第八十二号証の一並びに査第八十三号証ないし査第八十六号証

一 査第二十四号証、査第二十八号証、査第四十号証、査第四十二号証、査第四十六号証ないし査第四十八号証、査第五十号証、査第五十三号証ないし査第五十九号証、査第六十一号証、査第六十二号証、査第八十九号証、査第九十二号証ないし査第九十四号証及び査第百二十四号証の各審訊調書の記載

一 査第三十四号証、査第六十号証、査第九十五号証及び査第九十六号証の各供述調書の記載

同二の(二)の事実については、

一 査第十二号証の四、査第十九号証の一、査第七十号証の二、査第七十三号証の三、査第七十七号証の一、査第七十八号証、査第八十一号証の一及び二、査第八十四号証、査第九十八号証の一、査第九十九号証ないし査第百四号証並びに査第百八号証ないし査第百十四号証

一 参考人富永武彦(第七回速記録)、松井達夫(同)、金山哲三(第八回速記録)、武信光(第十回速記録)及び松浦達也(同)の各陳述

一 査第二十四号証、査第四十八号証、査第五十六号証、査第六十一号証、査第七十九号証、査第八十八号証、査第八十九号証、査第九十二号証、査第百十五号証、査第百二十二号証ないし査第百二十四号証及び査第百二十六号証の各審訊調書の記載

一 査第五十三号証、査第九十六号証、査第百二十七号証、査第百二十九号証ないし査第百三十五号証、査第百三十七号証ないし査第百四十三号証、査第百四十九号証、査第百五十一号証ないし査第百五十九号証、査第百六十一号証ないし査第百六十九号証、査第百七十一号証ないし査第百七十三号証、査第百七十五号証ないし査第百九十八号証、査第二百号証ないし査第二百六号証、査第二百八号証ないし査第二百三十六号証及び査第二百三十八号証ないし査第二百四十四号証の各供述調書の記載

一 査第百三十六号証、査第百四十四号証ないし査第百四十七号証、査第百五十号証、査第百六十号証、査第百七十号証及び査第百七十四号証の各供述聴取報告書の記載

を、いずれも総合してこれを認めることができる。

第三被審人の主張に対する判断

一 通商産業省の行政指導について

(一) 被審人の主張

仮りに本件決定が行なわれたとしても、その後、通商産業省から被審人及び会員元売業者に対し、原油値上り額のうち一バーレル当り十セント相当分(製品換算一キロリツトル当り二百三十五円)は石油業界が吸収することとし、石油製品の販売価格の引上げは全油種平均一キロリツトル当り八百六十円を限度とするよう行政指導が行なわれ、会員元売業者もそれぞれこれに従つて石油製品の販売価格を定めているのであるから、本件決定に基づく違法状態は、本件審判開始決定以前において既に消滅したものである。

(二) 当委員会の判断

通商産業省の前記行政指導は、何ら法律上の強制権限に基づいて行なわれたものでなく、被審人及び会員元売業者に対し、単に原油の値上りに対応して石油製品の販売価格を引き上げる場合のガイドラインを示したものにすぎないから、これによつて、本件決定に基づく違法状態が消滅するものではない。

されば、前記二月二十二日の決定は、被審人がこれを積極的に破棄する等の措置をとらない限り、依然としてその効力を失つていないものというべきところ、本件全証拠にてらし、被審人が本件決定を破棄し、又は会員元売業者をして値上げの申し入れを撤回させる等破棄に準ずる措置をとつた形跡は認められない。

以上のとおりであるから、被審人の前記主張は到底これを採用することができない。

二 主文について

(一) 被審人の主張

本件審判手続において、被審人が勧告主文について釈明を求めたのに対し、審査官は「現段階においては、釈明の限りでない」と陳述したが、その後、この点については何らの審理もなされないまま結審したから、本件審判手続には、重大な審理不尽の違法がある。

(二) 当委員会の判断

当委員会が審決をもつて排除措置を命ずるにあたつては、いかなる内容の排除措置を命ずるかについて、あらかじめ被審人の意見弁解を徴すべき明文の規定は存しない。審判開始決定書記載の事実及び法令の適用について意見弁解の機会をもつ以上、その排除措置の内容についてまで意見弁解をきく必要はなく、したがつて、本件審判手続に違法があるとの被審人の主張は理由がない。

第四法令の適用

以上の事実に法令を適用した結果は、次のとおりである。

被審人は、独占禁止法第二条第二項に規定する事業者団体に該当するところ、被審人は、会員元売業者の石油製品の販売価格の引上げを決定し、これを会員元売業者に実施させることにより、我が国における元売業者の石油製品の販売分野における競争を実質的に制限しているものであつて、これは、同法第八条第一項第一号の規定に違反するものである。

よつて、被審人に対し、独占禁止法第五十四条第一項、同法第八条の二第一項及び公正取引委員会の審査及び審判に関する規則(昭和二十八年公正取引委員会規則第五号)第六十九条第一項の規定により、主文のとおり審決をする。

昭和四十九年三月二十八日

公正取引委員会

委員長 高橋俊英

委員  高橋勝好

委員  橋本徳男

委員  呉 文二

委員  瀧川正久

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